肩の想い
五十肩は自然に治る?
答えは「NO」です!肩の疾患で一番馴染みが深い名前は五十肩だと思います。でも実は五十肩は整形外科の教科書にはありません。正しくは「肩関節周囲炎」と言います。(でもわかりやすいようにここでは「五十肩」に統一します。)
市民のみなさんの間では、肩の痛み=五十肩となっているように、整形外科医の中でも五十肩に対する意見はさまざまで、全然統一されていないのが現状です。ではそれはなぜでしょうか?
1つ目は、「五十肩」といっても、さまざまな病態があること。
2つ目は、「五十肩」はレントゲン画像やMRIではほとんど異常がないこと。
3つ目は、「五十肩」の原因をよくわかっていない医者が多いこと。
と考えています。
これまで整形外科の診断は、画像診断が中心でした。
「腱が切れているから痛い」「骨が変形しているから手術で治す」といったことは今でも行われている治療の流れです。でも「五十肩」は画像ではほとんど異常はみられない。だけど動かない、痛いのです。みなさんも整形外科を受診して「レントゲンに異常はありません」と言われた経験はありませんか?
したがって画像診断を中心として治療をしている医者は、五十肩の原因がわかっていない場合が多いと思っています。実際に肩はよくわからないという声を整形外科医からよく聞きます。では「五十肩」の原因はなんでしょうか?
肩の痛みの原因は求心性不良
「求心性」とは?
肩関節は、肩甲骨のお皿の部分と上腕骨のボールの部分で構成されています。このお皿とボールの位置関係を求心性といいます。ボールがお皿の真ん中に位置して動かすことができていれば、求心性がよく、痛みはありません。しかし、ボールとお皿の位置がずれている場合には、痛みやひっかかり、動きの制限が生じます。これが求心性不良の状態です。「五十肩」の原因は、肩を動かす筋肉の問題で、求心性が不良となっているため、痛いし、動かなくなるのです。したがって「五十肩」の原因は筋肉の動きの異常です。関節に注射をすることで痛みが減ったり、筋肉の状態が自然に治ることもありますが、多くの場合は、バランスがくずれたままなんとなく痛みが取れていくことが多く、また痛みを繰り返すことがほとんどです。したがって、リハビリでしっかりと求心性を治すことが必要です。
肩関節疾患の治療はリハビリテーション
肩を動かす筋肉はとても複雑な動きをしています。まだ世界的にも解明されていません。したがって「五十肩」の筋肉の動きの異常もさまざまな原因があります。でも結果として求心性がくずれているので、肩が痛いのです。例えば、肩の中の腱が切れている「腱板断裂」の状態も同様です。腱が切れているので、バランスが取りづらく肩が痛い。でも実は腱板断裂で症状を出すのは、全体の1/3程度と言われています。2/3の人は腱が切れていても症状がほとんどないのです。となると、腱板断裂→手術 という治療はおかしいと私は考えています。腱が切れていても、リハビリでバランスが獲得できれば痛みは出ませんし、日常生活動作も不自由がでないことがほとんどです。したがって、当院の肩の治療は、まずリハビリテーションです。医師の診断と理学療法士の運動機能の評価によって動きが悪くなっている原因に対して治療を行います。
大事なのは「姿勢」
リハビリを行う上で大切な要素が「姿勢」です。
肩関節はお皿とボールの構造で自由度が高い関節ですので、動かすときには筋肉のバランスの要素が大部分を占めます。そしてその中でも肩甲骨の動きがとても重要です。
でも、もっと根本原因を探っていくと、肩甲骨がついている胸郭の動きの異常、つまり「姿勢」の異常が原因のことが多いです。
「姿勢」を治せと言われても、すぐに治せるわけではありません。したがって、日々の日常生活での意識や、仕事環境の整備などもとても大切なのです。
肩の新しい治療法①「ハイドロリリース」
肩の動きの評価には「超音波」がとても有用です。レントゲンやMRIは止まった状態での画像評価です。しかし超音波は動きの評価をすることができます。そして超音波が普及してくるにつれて、新しい考え方、治療方法が生まれてきました。
「筋膜」という概念です。
筋膜とはそれぞれの筋肉を覆っている膜であり、全身に存在します。筋膜部分には細かな神経が多くあることがわかっており、筋膜部分の動きが悪くなることで、痛みを感じていることが多いのです。最近は整形外科疾患の痛みの半分以上はこの筋膜が原因の痛みだと思っています。
そしてこの筋膜の動きを治すのが「ハイドロリリース」です。超音波をみながら、筋膜部分にピンポイントで注射をします。筋膜の動きがよくなることで、すぐに痛みがとれ、動きがよくなることができます。
当院では、リハビリ治療にハイドロリリースを併用することで、できるだけ患者さんの痛みを取り、できるだけ早く治すことを目標にしています。
肩の新しい治療法②「マニピュレーション」
五十肩の中には、肩がガチガチに固まってしまう「凍結肩」という状態になることがあります。
凍結肩は関節包という関節の袋が硬く短縮してしまう状態で、肩がほとんど動かないような状態です。凍結肩の治療は、1年以上もかかることが多く、患者さんにとって日常生活に長く支障をきたすつらい期間であり、私にとっても治せない無力感でつらい疾患です。期間が経つと少しずつ関節の袋も元に戻っていく不思議な病態ではあるのですが、積極的に治療ができない疾患でした。
手術で関節の袋を切ったりする治療も行われていますが、あまりいい治療方法とは言えず、これまでは長くかかるけどがんばろうとお話をしていたところでした。しかし、近年マニピュレーションと言われる手技が行われ、治療期間が大幅に短縮できるようになりました。これは以前から手術室で行われていた治療ですが、手術と組み合わせる場合の成績はあまりよくありませんでした。
しかし、超音波を使うことで、外来での行うことができるようになり、また手術で切ったりなどしないので、処置のあとも早期に肩が動かすことができます。治療期間の短縮という意味では、すごくよい治療方法だと思っています。その中で、当院オリジナルのアレンジを加え、ハイドロリリースを行っています。北海道ではまだほとんど行われていない新しい治療方法です。
肩の最善の治療を提供
五開院前は大学病院で、肩外来を担当しており、複雑な手術や難治症例の治療を担当していました。
なかでも、2014年に使えるようになった肩の新しい人工関節の経験をたくさん積ませていただきました。肩の治療はもちろんリハビリが第一ではありますが、中には手術をしたほうがよい方もいらっしゃることも確かです。そこをしっかりと見極め、患者さんにとって最善の治療を提供していきたいと考えています。
手術は、カメラを使った腱板修復術(鏡視下腱板修復術)や、脱臼を繰り返す場合の再脱臼率の少ない脱臼手術、変形が強い場合には、従来のものと、新しいものを使い分けた人工肩関節置換術なども対応します。大学レベルの治療を、提供します。日々進歩、進化する医療の中で、常に新しい知識を勉強し、考え方、治療方法ともに最善の治療が提供できるようにがんばっていきます。